『ファミリー・ツリー』 名画座で映画を観る

異常な暑さの長い長い夏が終わったようだ。 ペットロスもあって引きこもりめいた二ヶ月だった。 ようやく、ちょっと動く気分になって映画を観に行った。 映画好きなのに、『ギンレイ』を知らないなんて、もぐりですよ、と人に言われたのがきっかけ。 その、…

コマちゃん死す

わが狛犬が、20時間程前に死んでしまいました。 僧房弁不全で心臓がそうとう肥大していたためでした。 全力疾走しているような激しい呼吸で一日を過ごし、夜中の1時半にとうとう息が途切れました。 最後の一息は、私に向かって、口を開けて、ちょっと怖い…

バーバラ・ピム『秋の四重奏』を読む

このところ、暑さにやられて体調不良になって、グダグタした毎日を送っている。 そのおかげで、本をたくさん読めたのはよかった。みすず書房の、バーバラ・ピム著『秋の四重奏』。 これは友人が読んでみたら、と貸してくれた小説。 自分で買った本でない、特…

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103歳のヴァイオリン教師の死、そして「神童」 渡辺茂夫

ヴァイオリン教師、渡辺季彦氏が103歳で亡くなった、というニュースを数日前に耳にして、ずしんとした重たい悲しみを覚えた。渡辺茂夫という、少年天才ヴァイオリニストを作り上げたのが、渡辺季彦氏なのだった。 季彦氏は、茂夫の養父(叔父だったが茂夫…

無気力な酒屋

画家の友人の家に、仲間で連れ立って絵の出来具合をチェックしに行くことになった。 絵の進行を促進するためには、画家にアルコールエネルギーを注入する必要に迫られていた。手土産代わりに、画家が希望したのは菊正宗の瓶入り、つまり一升瓶だ。 くれぐれ…

DENON DAD-1500SE のCDプレイヤーでニコレッタ・セーケを聴く

20年近く使ったSONYのCDプレイヤーがとうとう壊れたので、人の薦めもあってDENON DAD-1500SE のCDプレイヤーを買った。 それを、トライオードのTRV34SEの真空管プリメインアンプにつないだ。 ちょっと自慢の真空管アンプ。 最初にトレイに載せたCDは、ニコ…

堀内康司 という人の絵

その画廊に行く気になったのは、まぁ、ある不純な好奇心からだった。 そこに、月曜日現われるという、女装の芸術家を見たいと思ったからだ。 彼or彼女、クルミちゃん(仮名)は、ミニスカートに網タイツ、金髪姿でやってくるのだとか。 主に現代的な裸婦の絵…

スフィンクスは笑う‥‥安部公房の母

安部公房の母、安倍ヨリミによる幻の小説『スフィンクスは笑う』が、およそ一世紀ぶりに講談社文芸文庫で復刊されたものを読んだ。 大正十二年から十三年にかけて描かれた、男女五人の恋愛小説だ。 読んでびっくりした。 全然古びてない、というより、なんだ…

狛犬の病状

コマちゃんの心臓病はじわじわと進行していて、この前もバタンと倒れ、キュウと苦しそうな声を上げたのです。 必死の思いで心臓をマッサージし、どうにか蘇生。 すぐに獣医さんに行ったら、ジゴキシンを飲ませることになりました。 これで薬は4種類。 ベト…

あまりに寒かったこの冬

もともと寒さに弱い私でしたが、この冬の寒さには死ぬ思いでした。死ぬ思いではなくって、身近には年末までに3人の知人が亡くなってしまいました。 寒さと、やはり、東日本大震災というものが、持病のある人の心のエネルギーを奪ったのかもしれない。 その…

霊感ーー北杜夫

昨日、ふと、読みかけたままにしてあった北杜夫の「母の影」の文庫本をバッグに入れて出掛けた。 何冊もよみかけの本があったのに、なぜかその本を手に取り、電車の中で読んだ。 北杜夫の母親、ダンスホールの男に入れあげて新聞沙汰になって、別居をよぎな…

通院の夏、そして秋

この夏、一ヶ月の間に、何度もレントゲンを撮って、被爆量は大丈夫なのかと思った。 首から下、全身だ。 心臓が肥大しているという。 「危ないかもしれませんよ。覚悟して下さい」 と女の先生は言った。 悲しい‥‥。 レントゲン室から帰って来た狛犬に首輪を…

長い坂を歩いて

そしてオバサンになったのかもしれない。 長い坂は、だらだら坂だったかもしれないし、急勾配と下りが組み合わせてあったかもしれない。 ま、とにかく、高校時代の友人たちが、このごろ、ようやく暇をみつけて集合する。 オバサン年齢にはなったけれど、みん…

レトロな歯医者さん

微妙に歯が痛くなり始めて、歯医者に行かねばと思いながら数ヶ月。 まず、心の準備のため、部屋の大掃除。 断捨離、とばかりに、押し入れから始まり、本棚、洋服ダンス、と物を捨てたり整頓したりした。 3月11日の大震災で、部屋の中のあちこちが崩れて、…

六月の気温? 夏至の頃

夏至は、一昨日、あるいはその前日、だったろうか。 そう、夏至。 一年のうちで、いちばん心がのびやかになる時期。 ベトナム映画の「夏至」を、かつてBunkamuraで観たことを思い出す。 あの、けだるく、幸福感に満ちた倦怠の時間。 そして、その裏側にある…

自意識、原発事故、小池龍之介

東日本大震災、と命名された大地震が起こってから3ヶ月。 呆然、無気力、といった時間が過ぎて行った気がする。原子力発電所が水素爆発を起こした映像は、テレビの画面では小さく、そのスケールがどんなものか、はっきりと捉えられなかった。 水色に白い波…

2011年3月11日 大震災の日

東京に住んでいる私は、東北地方の被災者の方々が、どこか身代わりになって下さったような、罪悪感を感じながら、大津波が家や車、町そのものを飲み込んでいく映像を観ていました。原子力発電所の事故が、解決されず、重苦しい不安にじわじわと苛まれ、生活…

相撲について

ウチの狛犬のコマちゃんは、眠くなると、皮手袋をくわえて来て、 「ねぇ、一番、取ってよ〜」 と、おねだりする。 犬相撲だ。 それが、彼女の寝る前の儀式。仕方なく、左手に工事用皮手袋をして、 「お座りっ! まだだよ〜、まだだよ〜」 と、じっと見つめる…

ユリカモメ

狛犬の散歩コースで、最近、港へ行くようになった。 こんな近くに、港があるなんて、この十年、気がつかなかった。 最近は、公園の犬進入禁止、というところが増えて、犬の散歩もジプシー状態だったのだ。 それで、知らない道を歩いて行ったら、そこに港があ…

金魚の再婚

まず、悲劇について記さなくてはならない。 それは、秋になったというのに、12階のベランダに1匹の蠅がしつっこく飛んでいるのに気がついた時から始まった。 はてな? 何かあるのだろうか? と思ってベランダを見廻してみると、ああっ! ベランダの睡蓮鉢…

うちのパンサク

昔々、中学の頃、それはどちらかと言うと「お嬢さん学校」と言われる学校だったけど、 ある友達が 「ねぇねぇ、パン、作ったことある?」 と皆に聞いてまわっていた。 「ないけど」 「ないわ」 という答えが続いたが、ある女の子が 「あるわ、パン、作ったこ…

ノミが出た

関東地方の梅雨が開けた。 7月17日の梅雨明けは早いような気がする。 あまりの暑さで、ベランダのミニバラが枯れそうだ。 この春、京成バラ園で買って来たものなのに。我が狛犬のコマちゃん(大型チワワ)が、尻尾を痒がっている。 突然、自分の尻尾をガ…

タジン、天蓋の空

このところ、タジンを使うお料理に凝っている。 タジンは、モロッコで使われる一種の土鍋だ。 同時に、モロッコでは、タジンと言うと、料理そのものも意味するとのこと。 こういった知識は、口尾麻美さんという方の書かれた、タジンの料理本から知ったことだ…

銀座 路地行き

『路地度』が枯渇したので、銀座の路地巡りに付き合ってくれませんか、と友達に誘われた。 友達は、少し前に、整然とした住宅街に引っ越したのだった。 私よりずっと年下で、少年みたいな友達だ。 「何? ロジド、って?」 と尋ねると、 「スラーッ、ピチー…

上板橋ワンダーランド

親族の中で最年長の伯母さんのお見舞いに行くことになった。 伯母さんはもうすぐ91歳。 足腰はだいぶ弱って、支えがないとマリオネット人形のようにくたりとなる。 でも、頭は冴えわたっていて怖いくらいだ。 私よりも記憶力ははるかに良い。 私が何曜日に…

レナード コーエンのハレルヤ

寒い寒い日。 東京の町にも雪がチラチラちている。 テレビにはバンクーバーオリンピックの開会式の様子が流れている。 そんなに面白くないな、と思いながら、他のことをしていると、レナード.コーエンの「ハレルヤ」を歌手の誰かが歌っていた。ああ! レナ…

松涛で道に迷う

寒風吹きすさぶ中、松涛美術館へ、村山槐多の絵を見に行った。カイタは、1919年のスペイン風邪で、二十代半ばで死んだ画家だ。 太くて強い線で描かれたデッサンには、おのずと才能の高さが表われていた。 それも、その時代に反逆するような才能。潰して半球…

上野公園

藤原定家、その父、藤原俊成の真筆が展示されているという、冷泉家展に行ったのは、寒気団が強烈に攻めて来ている時だった。それでも、展覧会場は人の波で熱気に満ちていた。 ギュウギュウで、背中越しから、何とか、国宝や重要文化財の筆跡を覗き見る。 で…

たぬき

伯父さんのお墓は、秩父の山が近くに見えるような場所にある。 そのお墓に一周忌のお参りに行った。道中は秋景色。 丘陵を貫く欅の並木道が、黄色やオレンジに色付き、陽に輝いていた。 田んぼは稲刈りが終って、稲株の跡がすらっと何本もの直線を描いていた…